東京地方裁判所 平成6年(ワ)11791号 判決 1997年7月30日
原告
興亜火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役
笹哲三
右訴訟代理人弁護士
中田明
同
松村幸生
被告
協和海運株式会社
右代表者代表取締役
木下純一
右訴訟代理人弁護士
中村哲朗
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告は、原告に対し、一三三八万五六七一円並びに
一 内四五四万八四六二円に対する平成五年九月一四日から、
二 内二五五万七二三四円に対する平成六年三月一日から、
三 内五二一万二七九二円に対する平成五年一二月一六日から、
四 内一〇六万七一八三円に対する平成五年一一月五日から、
各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
被告は、運送人として貨物の運送契約を締結していたところ、運送中に右貨物の一部に損害が発生した。原告は、荷受人(船荷証券所持人)との間で右貨物につき貨物海上保険契約を締結していたものであり、右損害について荷受人に保険金を支払った。そこで、原告が、運送契約上の債務不履行責任に基づく損害賠償請求権を保険代位により取得したとして、被告に対して右損害の賠償及び保険代位の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を請求した。なお、同種の事件が都合四回発生しており、原告はこれらを併合して請求した。これが本件事案の概要である。
(本件で問題となる運送契約は、その締結日の前後により平成四年法律第六九号による改正前の国際海上物品運送法(昭和三二年法律第一七二号)が適用される場合と改正後の同法が適用される場合とがあるが、本件において具体的にその適用が問題となる条項については改正の前後を通じて変更がないので、同法について述べる場合は、便宜上改正の前後を区別せずに表記することとする。)
一 争いのない事実等(証拠により容易に認められる事実を含む。)
(証拠により認められる事実については、認定に供した主な証拠を略記して摘示する。また、書証を摘示する場合、成立に争いがないか、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められるときは、その旨の記載を省略する。以下本判決において同様。)
1 当事者
原告は損害保険を営業の主な目的とする会社であり、被告は海上運送等を営業の主な目的とする会社である。
2 第一の運送契約について(甲一から甲六、弁論の全趣旨)
(一) 被告は、荷送人リチャードソン・インターナショナル・リミテッド(以下「リ社」という。)との間で、フィッシュミール(魚粉)一万四〇二五袋(各三五キログラム入り、合計四九万〇八七五キログラム。以下「貨物1」という。)をパゴパゴ(サモア)から横浜まで運送する旨の契約(以下「運送契約1」という。)を締結し、平成五年四月一九日、リ社に対して、船荷証券(船荷証券番号PPG〇〇六七及びPPG〇〇六八)を発行交付した。
(二) 貨物1の荷受人株式会社東食(以下「東食」という。)は、リ社から右各船荷証券を譲り受け、その所持人となった。
(三) 貨物1は「キョーワハイビスカス」号に船積され、平成五年五月二五日、横浜に到着し、東食に引き渡されたが、その一部に腐敗による損害(以下「損害1」という。)を生じていた。
(四) 原告は、東食との間で、貨物1について別紙一の内容で貨物海上保険契約を締結していたので、平成五年九月一三日ころ、東食に対し、同社が被った損害を填補するため、保険金四五四万八四六二円を支払った。
3 第二の運送契約について(甲七から甲一一、弁論の全趣旨)
(一) 被告は、リ社との間で、フィッシュミール八五〇〇袋(各三五キログラム入り、合計二九万七五〇〇キログラム。以下「貨物2」という。)をパゴパゴから横浜まで運送する旨の契約(以下「運送契約2」という。)を締結し、平成五年六月二〇日、リ社に対して、船荷証券(船荷証券番号PPG〇〇七九)を発行交付した。
(二) 貨物2の荷受人東食は、リ社から右船荷証券を譲り受け、その所持人となった。
(三) 貨物2は「キョーワハイビスカス」号に船積され、平成五年七月二一日、神戸に到着(荷揚港が合意により変更になったものと思われる。)し、東食に引き渡されたが、その一部に腐敗、カビ又は自然発火による損害(以下「損害2」という。)を生じていた。
(四) 原告は、東食との間で、貨物2について別紙二の内容で貨物海上保険契約を締結していたので、平成六年二月二八日ころ、東食に対し、同社が被った損害を填補するため、保険金二五五万七二三四円を支払った。
4 第三の運送契約について(甲一二から甲一六、弁論の全趣旨)
(一) 被告は、リ社との間で、フィッシュミール一万〇二〇〇袋(各三五キログラム入り、合計三五万七〇〇〇キログラム。以下「貨物3」という。)をパゴパゴから横浜まで運送する旨の契約(以下「運送契約3」という。)を締結し、平成五年三月一七日、リ社に対して、船荷証券(船荷証券番号PPG〇〇六三―ただし、この証券は貨物3のうち一部に対応するものである。)を発行交付した。
(二) 貨物3の荷受人東食は、リ社から右船荷証券を譲り受け、その所持人となった。
(三) 貨物3は「キョーワバイオレット」号に船積され、平成五年四月一九日横浜に到着し、東食に引き渡されたが、その一部に腐敗又はカビによる損害(以下「損害3」という。)を生じていた。
(四) 原告は、東食との間で、貨物3について別紙三の内容で貨物海上保険契約を締結していたので、平成五年一二月一五日ころ、東食に対し、同社が被った損害を填補するため、保険金五二一万二七九二円を支払った。
5 第四の運送契約について(甲一七から二一、弁論の全趣旨)
(一) 被告は、リ社との間で、フィッシュミール三四〇〇袋(各三五キログラム入り、合計一一万九〇〇〇キログラム。以下「貨物4」という。また、貨物1ないし4をまとめて「本件貨物」という。)をパゴパゴから神戸まで運送する旨の契約(以下「運送契約4」という。また、運送契約1ないし4をまとめて「本件運送契約」という。)を締結し、平成五年五月二〇日、リ社に対して、船荷証券(船荷証券番号PPG〇〇七五)を発行交付した。
(二) 貨物4の荷受人東食は、リ社から右船荷証券を譲り受け、その所持人となった。
(三) 貨物4は「キョーワバイオレット」号に船積され、平成五年六月一七日神戸に到着し、東食に引き渡されたが、その一部に腐敗又はカビによる損害(以下「損害4」という。また、損害1ないし4をまとめて「本件損害」という。)を生じていた。
(四) 原告は、東食との間で、貨物4について別紙四の内容で貨物海上保険契約を締結していたので、平成五年一一月四日ころ、東食に対し、同社が被った損害を填補するため、保険金一〇六万七一八三円を支払った。
二 争点
本件の主な争点は、
① 本件損害の発生時期
② 本件損害の額
③ 本件損害の発生原因
④ 被告の責任の有無
である。
1 争点①(本件損害の発生時期)について
<原告の主張>
本件貨物についての本件損害は、いずれも被告による運送中に発生したものである。
<被告の主張>
原告の右主張は否認する。
本件損害は、運送人が積地のコンテナ・ヤードで引渡を受ける以前又は揚地のコンテナ・ヤードで引渡を行った後に発生した可能性がある。
2 争点②(本件損害の額)について
<原告の主張>
(一) 荷受人である東食が貨物1について被った損害額は、(1)及び(2)の合計四五四万八四六二円である。
(1) 貨物の損害額 四三五万〇七四三円
貨物1全体(一万四〇二五袋)の到達地価格は二二三九万四〇〇〇円であるところ、損害1が生じた貨物の量は2724.8袋と算定される(損害が発見された袋の数三四〇六袋に査定された損率八〇パーセントを乗じたもの)ので、これを金額に換算すると標記のとおりとなる。
22,394,000×2,724.8÷14,025=4,350,743
(2) 損害査定費用 一九万七七一九円
(二) 荷受人である東食が貨物2について被った損害額は、(1)及び(2)の合計二五五万七二三四円である。
(1) 貨物の損害額 二二七万五四二六円
貨物2全体(八五〇〇袋)の到達地価格は一二九四万五〇〇〇円であるところ、損害2が生じた貨物の量は1494.1袋と算定されるので、これを金額に換算すると標記のとおりとなる。
12,945,000×1494.1÷8,500=2,275,426
(2) 損害査定費用 二八万一八〇八円
(三) 荷受人である東食が貨物3について被った損害額は、(1)ないし(4)の合計五二一万二七九二円である。
(1) 貨物の損害額(その一) 四八〇万九一五九円
貨物3全体(一万〇二〇〇袋)の到達地価格は一六八九万四〇〇〇円であるところ、うちコンテナ番号TPHU八二二三六九〇を含む一九個のコンテナについて損害3(の一部)が生じた貨物の量は2903.6袋と算定されるので、これを金額に換算すると標記のとおりとなる。
16,894,000×2,903.6÷10,200=4,809,159
(2) 損害査定費用(その一)
一七万八五四〇円
(3) 貨物の損害額(その二)
一四万〇七八三円
貨物3全体(重量で表示すると三五万七〇〇〇キログラム)のうちコンテナ番号TPHU八一〇七七九四について損害3(の一部)が生じた貨物の量は二九七五キログラムと算定されるので、これを金額に換算すると標記のとおりとなる。
16,894,000×2,975÷357,000=140,783
(4) 損害査定費用(その二)
八万四三一〇円
(四) 荷受人である東食が貨物4について被った損害額は、(1)ないし(4)の合計一〇六万七一八三円である。
(1) 貨物の損害額(その一)
七三万六九六九円
貨物4全体(三四〇〇袋)の到達地価格は五三二万九〇〇〇円であるところ、うちコンテナ番号KYWU二〇六一三九九、KYWU二九二〇四七三及びCRXU二二七五二〇〇について損害4(の一部)が生じた貨物の量は470.2袋と算定されるので、これを金額に換算すると標記のとおりとなる。
5,329,000×470.2÷3,400=736,969
(2) 損害査定費用(その一)
一一万七二一四円
(3) 貨物の損害額(その二)
一四万四一九六円
貨物4全体のうちコンテナ番号IEAU二四五三六一一について損害4(の一部)が生じた貨物の量は九二袋と算定されるので、これを金額に換算すると標記のとおりとなる。
5,329,000×92÷3,400=144,196
(4) 損害査定費用(その二)
六万八八〇四円
<被告の主張>
損害の内容については不知。
3 争点③(本件損害の発生原因)について
<被告の主張>
本件損害は、本件貨物に過度の水分が含まれていたために貨物自体から水蒸気が発散し、それが凝結して貨物を濡らしたこと(濡損の場合)、及び本件貨物の水分含有率が高くかつ酸化防止剤が均等に投与されていなかったために貨物自体が発熱したこと(焼損の場合)により発生した。
<原告の主張>
被告の右主張は否認する。
(一) 損害1・3・4は、運送中の温度環境の変化によってコンテナ内壁に結露が生じ、貨物の一部が濡れて腐敗したり黴びたりしたことによって発生した。
(二) 損害2は、次のようにして発生した。すなわち、貨物2を積載したコンテナのうち、
(1) コンテナ番号IEAU二七〇一七〇二、IEAU二四七六七五一及びKYWU二九三〇七五九の各コンテナにおいては、被告によってそれらの空コンテナが荷送人に提供された時からコンテナの床が湿っていたこと及び運送中の温度環境の変化によってコンテナ内壁に結露が生じ、貨物の一部が濡れて腐敗したり黴びたりした。
(2) コンテナ番号KYWU二九〇一五二〇及びKYWU二〇九〇三三四の各コンテナにおいては、コンテナに空いた穴を通じて外部から水が流れ込み、貨物の一部が濡れて腐敗したり黴びたりした。仮に、流入した水が主たる原因でなくとも、運送中の温度環境の変化によってコンテナ内壁に結露が生じたことと競合して損害が発生した。
(3) コンテナ番号KYWU二〇六二一三七のコンテナにおいては、運送中に貨物が自然発火して焼損が発生した。
4 争点④(被告の責任の有無)について
<被告の主張>
(一) 特別の免責事由
(1) 本件貨物は、過度の水分を含み、あるいは酸化防止剤が均等に投与されていないフィッシュミールであったから、運送品の特殊な性質又は隠れた欠陥があったということができる。そして、本件損害は右の欠陥により通常生ずべきものであるから、被告は国際海上物品運送法(以下「法」という。)四条二項九号により免責される。
(2) また、本件貨物をコンテナに積載(バニング)する際に、乾燥剤を入れておくこと、梱包を紙袋ではなく別のものにすること及び梱包の間にダンネージ等により空間を設けること等の方法により本件損害を避けることができたはずのところ、そうしていなかったから、本件貨物には荷造の不完全があったということができる。そして、本件損害は右事由により通常生ずべきものであるから、被告は法四条二項一〇号により免責される。
(3) 仮に、本件貨物の濡損等の原因となる水分が本件貨物から出たものではなくコンテナ内の空気中の水分であったとすれば、荷送人がバニングの際にコンテナ内の空気を十分乾燥させなかったために本件損害が発生したということができる。そして、本件損害は右事由により通常生ずべきものであるから、被告は法四条二項六号により免責される。
(二) 被告の注意義務違反の不存在
(1) 本件貨物について発行された分析証明書(シッパーズ・パックー運送人が予め空コンテナを荷送人に渡しておき、これを一定期間荷送人が保管し、荷送人自ら貨物をコンテナにバニングし、封印(シール)を施した後にコンテナ・ヤードで運送人に引き渡す方法―である本件においては、運送人は右証明書の記載を前提に運送を行うしかない。)によれば、本件貨物の水分含有率は一〇パーセント以下と表示されている。このような水分のフィッシュミールであれば、濡損が発生する危険性は低いから、そもそも被告において貨物の濡損を防止すべき特別の注意義務はない。
(2) また、次のとおりの事情があるから、被告に本件損害の発生についての責任はない。
① 本件貨物をバニングするために空のコンテナを引き渡した時に荷送人がこれを異議なく受領しており、その時点でコンテナに問題はなかった。その後は荷送人がこれを保管していたのであるから、本件貨物のコンテナへのバニング時にコンテナ及びその内部を検査すべき地位にあるのは被告ではなく荷送人である。
② 本件運送契約において使用されたコンテナはドライコンテナであり、その構造上通風及び空調の設備は全くないから、運送人においてコンテナ内の温湿度を調整することは不可能である。
③ フィッシュミールは、一般的には積付場所等に何らかの注意を払わなければならないような種類の貨物ではない。また、本件損害の発生とコンテナの積付位置には何の相関関係もなく、本件損害の発生は積付位置とは無関係である。
④ フィッシュミールは安価な商品であるから、積地・積量によって船倉に直積みすることが不可能な場合(本件もこれにあたる)は、運賃の安いドライコンテナによる運送が常識であって、他の種類のコンテナによる運送は考えられない。また、水分含有率が一〇パーセント以下のものであれば、適当な梱包とコンテナへの積載がなされている限り損害なくして運送することができる。したがって、ドライコンテナの使用が本件貨物の運送に不適切であるとはいえない。
⑤ シッパーズ・パックの事案では、コンテナ内への積付は荷送人の責任においてなすべきことである。
<原告の主張>
被告の主張は否認又は争う。
(一) 運送品に関する注意義務違反
運送人は、運送品の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚及び引渡についての注意義務を負う(法三条一項)ところ、被告は、この点について次のとおりの注意義務違反がある。
① 輸送用コンテナの保守管理の不十分(床の湿ったコンテナや穴の空いたコンテナを荷送人に提供したこと)
② 船倉内の温度・湿度管理の不十分(本件貨物の輸送航路は温度環境の変化が大きく、汗濡れを生じ易い条件であったにもかかわらず特段の注意を払わなかったこと)
③ 積付場所の不適切(機関室等の船内熱源に近く、高温の影響を受けやすい場所にコンテナを積み付けたこと)
④ ドライコンテナという本件貨物に不適切な運送方法の選択(ドライコンテナは、フィッシュミールの汗濡れを防止するための通風換気が事実上不可能であるにもかかわらず、ドライコンテナによる運送を行ったこと)
⑤ コンテナ内への積付についての配慮不十分(右のようなドライコンテナを使用するに際して、荷送人に対して乾燥剤の提供や適切な積み付け方法についての指示をしなかったこと)
(二) 堪貨能力担保義務違反
運送人は、船倉、冷蔵室その他運送品を積み込む場所を運送品の受入、運送及び保存に適する状態におくことについての注意義務を負う(法五条一項三号)ところ、本件貨物の運送のために被告から提供されたコンテナの一部には、床が湿っていて十分な除湿がされていないこと又は壁面に穴が空いているといった欠陥があり、被告のコンテナ保守管理体制の杜撰さを示している。したがって、他のコンテナについても十分な防水・除湿がなされていなかったものと考えざるを得ない。このように本件貨物の運送に適さないコンテナを提供したことは、堪貨能力担保義務に違反する。また、フィッシュミールの性質及び本件の航路の特質を考えると、換気ができないドライコンテナを漫然と荷送人に提供したこと自体が堪貨能力担保義務に違反するということができる。
第三 争点に対する判断
一 フィッシュミールについて
1 フィッシュミールの用途及び製造工程
本件貨物であるフィッシュミールは、家畜の飼料や肥料の原料として使用することを予定されていたものである。(甲九、甲二〇、甲二五)
その製造は、マグロ等を缶詰用に加工した残りの頭・尾及び内臓等を原料とし、それを①粉砕、②クッカーで煮沸、③圧搾機による水分・油脂分の除去、④乾燥機による乾燥、⑤冷却機による冷却、⑥袋詰め、という工程を経る。
なお、⑤の冷却機を通った後でもフィッシュミールは未だ相当の熱をもっており、袋詰めの後に(自然乾燥の意味も兼ねて)倉庫等において保管され、常温まで温度を下げた(クーリング)後、荷積みされるのが通常である。(争いのない事実、乙三の一の一・六頁)
2 フィッシュミールの製造及び運送における注意点
イワシやマグロ等の回遊性の赤身の魚の肉には不飽和度が高く酸化に対して不安定な「高度不飽和脂肪酸」が多量に含まれている。そのため、右の魚肉を原料とするフィッシュミールの場合には、こうした成分油脂が空気に触れることで酸化し、発熱しやすいので、これを防止するために、通常、製造工程中に酸化防止剤(主にエトキシン)が添加される。この酸化防止剤が一定量以上、均等に投与されていないと、フィッシュミールの運送中に激しい発熱を起こし、自然発火する場合もある。
また、フィッシュミールは、水分が十分低く抑えられていないと、カビ、腐敗等が発生しやすい。(争いのない事実、甲二九、乙三の一の七頁)
二 本件貨物の損害の発生状況について
1 本件貨物の運送方法等
被告は、リ社との本件運送契約に基づき、極東・南太平洋間の定期航路に月一隻の割合で配船しているコンテナ専用船(キョーワハイビスカス号又はキョーワバイオレット号)により、貨物1及び同2をキョーワハイビスカス号の第五九次航及び第六〇次航で、貨物3及び同4をキョーワバイオレット号の第四七次航及び第四八次航で、パゴパゴでの船積から通常通り約一か月前後で揚地(横浜又は神戸)まで運送し、荷受人である東食に引き渡した。(争いのない事実、乙一の四項、乙三の一の二・八頁、弁論の全趣旨)
本件貨物のフィッシュミールの場合、マグロの残滓を原料としたものであり、その包装には三五キログラム入りクラフト紙製の紙袋が使用されていた。荷送人であるリ社は、その袋を鋼製の二〇フィートコンテナ(ドライコンテナ)にバニングし、コンテナをシールした状態で運送人である被告に引き渡した。コンテナは、船舶の船倉内に積み付けられ、甲板積みされることはなかった。本件貨物は、揚地ではコンテナのまま荷受人である東食に引き渡され、引渡の数日後に最終目的地まで運送された後、コンテナから荷下ろし(デバニング)され、その際に一部に損害が発生していることが発見された。(争いのない事実、乙一の八項、乙三の一の二から五頁、乙六の一から四)
2 貨物1に発生した損害の状況(甲五、乙三の一の三・四頁)
運送契約1に基づき横浜で荷揚げされた貨物1のうち最終目的地である清水でデバニングされた三二本のコンテナ中一七本について、荷受人である東食の依頼で検査した社団法人日本海事検定協会のサーベイヤー(検査員)が調査した結果、次のような損害が発見された(なお、以下3ないし5において述べる貨物2ないし4の損害状況も、同様の調査報告に基づくものである。)。
すなわち、右一七本については、コンテナ自体には損傷が発見されなかったが、コンテナの天井及び壁面に発汗の跡が残っており、床面のうち壁面に近い部分は壁面を伝って流れ落ちた汗により濡れていた。これらのコンテナ内に積み付けられたフィッシュミールの袋の多くには、濡れ・カビ・腐敗・ウジ虫の発生による損害が発生していたが、こうした損害の発生した袋の多くは、コンテナの壁面又は床面に接した部分に積まれていたものであり、下層の袋ほど受損状態が悪い傾向があった。濡損の形跡のある袋に塩分反応は認められなかった。
3 貨物2に発生した損害の状況(甲一〇、乙三の一の五頁)
(一) 運送契約2に基づき神戸で荷揚げされた貨物2(コンテナ二〇本)は最終目的地である岡山及び倉敷でデバニングされたが、そのうち六本について、次のような損害が発見された。
(二) コンテナ番号IEAU二七〇一七〇二のもの
(1) デバニング後のコンテナを検査したところ、コンテナの欠陥や水の侵入した形跡は認められなかった。しかし、コンテナの内壁にはクラフト紙の破片が多数付着しており、木製の床面にはフィッシュミールの袋の跡が模様のように付いており、黄色又は茶色の汚れがあった。
(2) デバニングされた袋のうち、二四五袋が被損しており、それらは、袋の片側・端部・上部又は底部がカビで汚れており、その一部から中身を採取したところ、袋の汚損部に沿ってカビが発生し、腐敗していた。
(三) コンテナ番号IEAU二四七六七五一のもの
(1) デバニング時にコンテナを検査したところ、コンテナには欠陥が認められなかったが、結露がコンテナの天井に見られ、水滴が貨物上に落下しており、コンテナの壁を伝わって流れ落ちる状態であった。クラフト紙袋の破片がコンテナ内壁に付着し、木製床面には袋の跡が模様のように付いており、黄色又は茶色の汚れがあった。
(2) コンテナのドア付近に積載されていた袋は水浸しになっており、カビが生えて腐敗していたが、塩分反応は示さなかった。コンテナの壁面・床面又は天井付近に積載されていた袋は濡れ、カビが生え、茶色に変色していた。その一部から中身を採取したところ、袋の汚損部に沿ってカビが発生し、腐敗していた。
(四) コンテナ番号KYWU二九一〇五二〇のもの
(1) コンテナの右側壁にドアから約1.5メートルの位置に、腐食した一センチメートル径の破孔が存在した。
(2) 貨物の損害状態は、右(三)(2)と同様であった。
(五) コンテナ番号KYWU二九三〇七五九のもの
(1) デバニング時にコンテナを検査したところ、コンテナには欠陥は見受けられなかった。
コンテナの内壁にはクラフト紙袋の破片が付着し、木製床面には袋の跡が模様のようになっており、多少黄色又は茶色の汚れが認められた。
(2) コンテナの壁面・床面又は天井付近に積載された袋と積荷内部の数袋はカビが生え、茶色に変色していたが、塩分反応は示さなかった。その一部から中身を採取したところ、袋の汚損部に沿ってカビが発生し、腐敗していた。
(六) コンテナ番号KUWU二〇六二一三七のもの
コンテナには水が侵入するような欠陥は認められなかったが、部分的に貨物が焼損し、数袋の中身が灰になっていた。
(七) コンテナ番号KYWU二〇九〇三三四のもの
(1) デバニング中にコンテナを検査したところ、コンテナの前壁に二か所の破孔(二〇×五センチメートル径及び五×一センチメートル径)があり、水が侵入した形跡があった。コンテナの天井全面及び内壁に結露が認められた。
(2) 多数の袋が濡れて破れており、中身はカビが生え、腐敗していた。中身に塩分反応はなかった。
4 貨物3に発生した損害の状況(甲一五、甲二四、乙三の一の三頁、証人池田調書四・五・四二・四三頁)
(一) 運送契約3に基づき横浜で荷揚げされた貨物3のうち最終目的地である清水でデバニングされた二三本のコンテナのうち一九本について、次のような損害が発見された。
すなわち、右のコンテナには破損・破孔等の顕著な損傷は認められなかったが、天井及び壁面に発汗の跡が残っており、床面のうち壁面に近い部分は壁面を伝って流れ落ちた汗により濡れていた。コンテナ内に積み付けられた袋の多くに濡れ・カビ・腐敗・ウジ虫の発生が認められた。受損した袋の多くはコンテナの壁面又は床面に接しており、下層の袋ほど受損状態が悪かった。濡損の形跡のある袋に塩分反応は認められなかった。
(二) 貨物3のうち最終目的地である石巻でデバニングされたコンテナ番号TPHU八一〇七七九四のコンテナについて、次のような損害が発見された。
すなわち、デバニング時においてコンテナには何らの欠陥も発見されなかったが、コンテナ内に多量の水滴が見られた。コンテナの最下部に積載された貨物に濡損が見られ、カビの発生も認められた。貨物の損害は、積付位置によってコンテナの床面・壁面・天井付近の順にひどく、中心部分は損害がなかった。
5 貨物4に発生した損害の状況(甲二〇、甲二五、乙三の一の四・五頁)
(一) 運送契約4に基づき神戸で荷揚げされた貨物4のうち最終目的地である北条(愛媛県)でデバニングされたコンテナ番号IEAU二四五三六一一のコンテナについて、次のような損害が発見された。
すなわち、コンテナは通常の状態で、破損のような顕著な瑕疵はなかったが、天井に多くの水滴が見られた。受損した袋の多くは湿っており、内容物が腐敗していた。また、そのほとんどは壁面又は床面に接触していた。化学検査の結果、塩分の反応は見られなかった。
(二) 貨物4のうち最終目的地岡山でデバニングされた三本のコンテナについて、次のような損害が発見された。
(1) コンテナ番号KYWU二〇六一三九九のもの
デバニング時においてコンテナには水が侵入した痕跡及び欠陥はなかったが、コンテナの天井や壁面には多量の結露があり、多量の貨物が濡れていた。
(2) コンテナ番号KYWU二九二〇四七三及びCRXU二二七五二〇〇のもの
デバニング時にコンテナを検査したところ、コンテナには浸水の痕跡及び欠陥は認められなかったが、天井及び壁面に多量の結露が見られ、水滴がコンテナの壁面を伝って落下していて、多量の貨物が濡損を被っていた。
(3) これら三本のコンテナの貨物の受損品には濡れによるカビの発生及び腐敗が見れたが、濡れは塩分テストの結果清水によるものであると判明した。
三 本件損害の発生原因(争点③)について
1 争いのない事実並びに前記一及び二の各事実を前提に、本件損害の原因について判断する。
2(一) 本件貨物は、いずれも同一の製造者、同種の原料により製造されたフィッシュミールであり、いずれもドライコンテナにバニングされて運送人に引き渡され、定期船により同様の航路を経て運送され、船倉への積付方法も特段異なるところがないのであるから、運送された時期が平成五年の三月から七月ころであるという時期的な相違を考慮に入れても、損害状況が同じであれば、その原因も基本的には同様のものと考えることができる。
そこで、各サーベイヤーにより報告された損害状況等を総合すると、本件の四回の航海で運ばれた総数九六本のコンテナのうち、損害の発生したコンテナは四七本であり(乙三の一の三頁)、自然発火による損害が発生した一本(貨物2の一部、コンテナ番号KYWU二〇九〇三三四)を除けば、他の四六本の損害の内容は、いずれも袋の濡れ、中身の腐敗・カビ等で共通しており、したがって、本件損害のうち圧倒的部分を占める濡損は、いずれも同一の原因により発生したものと推認することができる。
(二) そして、損害の発生したコンテナの多くについて天井・床及び内壁に結露の発生が認められること、こうした部分に接して積み付けられていた袋に損害が集中しており、特に下層部分の損害が著しいこと、また、塩分反応が認められなかったことなどに照らせば、右濡損は、結露によって生じたものと認められる。
すなわち、コンテナの天井・床及び内壁が外気温の影響で急激に冷やされ、コンテナ内の空気の露点以下の温度にまで下がったため、これに接触する部分でコンテナ内の空気に含まれる水蒸気が凝結(スウェット・オン・コンテナと呼ばれるコンテナ内壁に生ずる発汗現象)し、結露となって、これが天井からしたたり落ちたり、側壁を伝わって流れ落ちたりすることによって、その付近に積み付けられたフィッシュミールの袋が濡れ、クラフト紙製の袋の内部に水分が浸透して、中身のフィッシュミールを湿らせてしまったことから、腐敗・カビ等を発生させるに至ったものと考えられる。(甲二二参照)
(三) なお、自然発火による損害が生じたコンテナ一本については、その原因は、酸化防止剤が均等に投与されていなかったために部分的に成分油脂が激しく酸化・発熱したためと考えられる。
3 このように、本件損害のうち濡損については、コンテナ内の結露による濡れが直接の原因であったと考えられるが、その結露の原因となった水分の発生源については、さらに検討を要する。(なお、結露の発生原因については、先に述べたところから、水分要因と温度要因が相互に関連するので、水分要因について述べるにあたって必要な限度で温度要因についても触れる場合がある。)
(一) ドライコンテナは、コンテナ内が完全に外気と遮断されているわけではないものの、気密性が高く、その構造上通気性を備えていないから、シールされたままでコンテナを運送する場合、換気はほとんど期待できない。(争いのない事実、弁論の全趣旨)
これは、言い換えれば、コンテナの外部から湿った空気が取り込まれることが殆どないということでもあるから、その影響は除外して考えることができる。その他一般的にコンテナ内の結露の原因となりうるものとしては、貨物及びコンテナの内装材に含まれていた水分(蒸発してコンテナ内の空気に放出される。)とバニング時に既にコンテナ内の空気に含まれていた水分が考えられる。
ところで、本件の場合、使用されたコンテナの内壁は鋼製で(甲五・一〇・一五・二〇・二四・二五の各報告書添付の写真による。)、木製の床面(その含有水分が結露の原因とは考えられないことについては後述のとおり。)を別とすれば、それ自体は水分を含まない構造である。また、バニング時のコンテナ内の空気(積み付け後の隙間部分)もさほど大量ではないから、運送中に極端な外気温の変化を受けない限り、そこに含まれる水分を主たる要因として運送中に本件のような濡損が発生するとは考えにくい(船倉内に積み付けられたコンテナが極端な外気温の変化を受けにくい状態にあることは後述のとおりであり、また、同一条件で運送されながら損害が発生しなかったコンテナが約半数あったことからも、コンテナ内の空気が主要因ではなかったことが推認できる。)そうすると、結露をもたらした水分の発生源として有力と考えられるものは、本件貨物自体に含まれる水分ということになる。
(二) そこで、次に、本件貨物が含有していた水分の量について検討する。
(1) 乙二、乙三の一及び証人澤谷の証言(調書九から一七頁)によれば、本件貨物と製造時期は異なるものの、同種原料、同一プラントにより製造されたフィッシュミールのサンプルをバニング直前に採取し、これを分析したところ、含有水分が13.36パーセントであるという結果が出たことが認められる。
これに対して、原告は、サンプルの採取の仕方が不適切である等の点を指摘してその信頼性を否定し、証人池田の証言中にもこれが公式のサンプルの採取方法ではないことを指摘する部分がある(調書一八・一九頁)。
しかし、証人澤谷の前記証言によれば、サンプルを採取してから分析するまでの間の保管状況に特段の問題は認められないから、右分析するまでの間の保管状況に特段の問題は認められないから、右分析結果はバニング時のサンプルの水分含有率をほぼ正確に反映したものとみることができる。
なお、製品全体の平均的な品質を知るためには、証人池田が前記証言中において指摘するとおり、全体の一割から二割の袋からサンプルを採取して混合することが適切であるということができるけれども、少なくとも出荷直前の製品中に水分含有率が一三パーセントを超えるものが存在したということは事実であるといってよい。
(2) また、証人池田の証言(調書七・八・二九・三〇頁)によれば、本件貨物と同じスター・キスト・サモア社製のフィッシュミールを東食から継続的に購入して肥料の原料として使用していた大協という会社では、フィッシュミールを受け入れる際に水分含有率の検査を行っており、水分含有率が一三から一五パーセントのものであっても、これを受け入れていたことが認められる。
(3) 他方、本件貨物には品質証明書(甲三〇の一・二)が添えられており、右証明書には水分が最高一〇パーセントと記載されていた(前記一2(一))けれども、右証明書は定型の書式に貨物の量・船舶の名称・目的地等をタイプで加入するものであって成分分析結果の部分は不動文字で記載されていること、「最高一〇パーセント」という記載方法は実際にサンプルを分析した結果としては不自然であること、運送品であるフィッシュミールの品質を知る上では酸化防止剤の残留濃度もまた重要な要素であるにもかかわらずその記載がないことからすると、右証明書が実際にサンプルを採取し、これを分析した結果作成されたものであるということについては大いに疑問があり、右証明書の記載をもって本件貨物の水分含有率が最高でも一〇パーセントであったとみることはできない。
(4) 以上によれば、フィッシュミールがその原料及び製造工程によって品質に若干のばらつきが生じうるものであることを考慮に入れても、なお本件貨物の相当部分は、被告への引渡時における水分含有率が一〇パーセントを超えるものであったということができる。
水分含有率が一〇パーセントを超えるフィッシュミールを本件のような条件下でコンテナ輸送すると、後記のように、結露による濡損を発生させる具体的な危険があるということができる(乙三の一の七頁、証人澤谷調書五六頁)。
(三) したがって、本件貨物中の過剰な含有水分が結露の主たる発生源であったと考えることができる。
4 ところで、本件貨物中の過剰な含有水分が結露の発生源であるとすると、ほぼ全部のコンテナに同じように結露による損害が発生してもよいはずなのに、実際には約半数のコンテナにのみ損害が発生している。そこで、本件貨物中の含有水分がどのような過程を経て結露を発生させたかについて、さらに検討する。
(一) この点については、次のように考えられる。
(1) 製造されたフィッシュミールの品質のばらつきが大きく、水分含有率の高いフィッシュミールが主としてバニングされたコンテナに運送中又は運送前後の温度変化が加わって集中的に結露が発生した。
(2) 製造工程におけるクーリングが不十分なフィッシュミールが一部のコンテナにバニングされた。そのため、右フィッシュミールがバニングされたコンテナ内の温度が上昇して露点が高くなり、貨物から蒸発した水分により結露が発生した。(乙三の一の一三・一五頁、証人澤谷調書六一から六三頁)
(3) コンテナ・ヤードに運び込まれてから荷積みされるまでの期間の長いコンテナに結露が発生した。
すなわち、積地であるパゴパゴのコンテナ・ヤードは野天であり(乙三の一添付の写真(32)・(33))、ここに運び込まれたコンテナは直接外気にさらされた状態になるから、船倉内での運送中よりも温度変化の影響を受けやすい状態にある。例えば貨物4のコンテナの中には平成五年五月二〇日の船積の一か月近く前にコンテナ・ヤードに運び込まれていたものがあるなど、コンテナ・ヤードに運び込まれてから荷積みされるまでの期間がばらばらである(乙三の一の一三頁)。そうすると、バニングされたフィッシュミールの性質が仮に同じであっても、長期間コンテナ・ヤードで放置されていたものについては、その間に結露が発生する可能性が高くなるということができる。
(二) 右(1)ないし(3)の要因のいずれが真実であるかは証拠上必ずしも明らかではなく、むしろこれら複数の要因が競合して作用したと考えられる。そして、これらの要因により、コンテナの一部についてのみ損害が発生した理由については一応の合理的説明をすることができる。
5 原告は、本件貨物のうち、貨物2の一部の損害については、コンテナの床面が被告による提供以前に湿っていたこと又は運送中にコンテナの破孔から水が浸入したことが濡損の原因であると主張し、前記サーベイヤーの報告(甲一〇)もその可能性を示唆している。
右主張は、本件貨物の濡損全体の原因論に関わるものではないが、個別のコンテナについての濡損の原因の主張として、以下その当否を検討する。
(一) サーベイヤーが指摘したコンテナ床面の濡れは、例えば前記二3(二)(1)のようなデバニング時の床面の状態をその根拠とするものであるが、結露が発生した場合、それによって床面が濡れ又は湿気を帯びることはいわば当然の結果である。
また、木製の床面の水分含有率が〇パーセントではなく、ある程度の水分を含有していることはその性質上当然であるが、水分含有率が比較的低い(つまり乾燥した)木材は、むしろ空気中の水分を吸湿して結露の発生を抑制する。空コンテナが被告から荷送人に引き渡された際にコンテナ内部の状態について何らかのクレームが付けられた事実がないこと(弁論の全趣旨)からすれば、右時点では床面に外観上の異常がなかったということができるから、コンテナ提供時点での木製床面の含有水分程度では、結露の発生に積極的な影響を与えるものではなかったということができる。
そうすると、床面の濡れは結露の原因というよりは結果であったと考えるのがむしろ合理的である。
(二) コンテナの破孔から真水(海水ではないことは、検査によって塩分反応が認められなかったことから明らかである。)が侵入した可能性について検討する。
サーベイヤーが破孔からの水の浸入を損害の原因と考えた根拠は、報告書(甲一〇)中では「破孔が存在したこと」以外に何ら述べられていない。コンテナ番号KYWU二〇九〇三三四のものについては、破孔部分から水が浸入した形跡があったと簡単に記載されているが、結露が内壁を伝わって流れ落ちた場合と明確に区別できたかどうかは必ずしも明らかでないし、水が浸入した時期が運送中であったことを推認するには不十分である。
したがって、右の見解を採用することはできない。
(三) なお、本件貨物を積載したコンテナはいずれも船倉内に積まれており、その間に降雨による真水の浸入があった可能性や、それ以外の要因によって真水が浸入した可能性を示唆する証拠は皆無であるから、コンテナが船倉内にある間に水が浸入したことは考えられない。
積地での受取後船積までの間、又は揚地での荷揚後引渡までの間に水が浸入した可能性も、前記認定の破孔の位置(天井部分ではなく、側壁部分である)、大きさ及び形状(甲一〇の添付写真参照)に照すと、積地であるパゴパゴが雨の多い土地であること(乙三の一の一〇頁)等の気象条件を考慮に入れても、にわかに想定し難い。また、破孔から大量の水の侵入があればコンテナ内の損害状況も破孔のないコンテナとは異なったものになると考えられるが、むしろ損害状況は他の被害コンテナと同様である。
これらの事情を総合すれば、運送中にコンテナの破孔から水が浸入したことはないか、仮にそれがあったとしても極く少量であり、それがコンテナ内の結露に与える影響は極めて小さいということができる。
四 被告の責任の有無(争点④)について
1 問題の整理
右にみたとおり、本件損害のうち圧倒的な割合を占める濡損は、本件貨物が含有する少なからぬ量の水分それ自体により、あるいは右水分に本件貨物の製造工程におけるクーリング不足もしくはコンテナ・ヤードにおける長時間の待機又はこれらの複数の要因が加わったために、結露が生じ、それによって発生したものである。そして、前記三4(二)(3)で検討した要因に照らすと、結露による濡損自体は、コンテナがコンテナ・ヤードに放置されていた間に既に発生していた可能性が高く、被告による運送中に損害が発生した蓋然性は低いということができる。右のとおり、被告による運送以前に結露が生じていた可能性が高いので、被告に責任がないことは明らかである。
ただし、被告による運送中に結露が発生したということもあり得るので、以下、その場合における被告の責任の有無を検討する。
2 被告の注意義務の有無
前記認定の事実によれば、ドライコンテナは著しく通気性に乏しく、また、冷凍コンテナなどとは違って内部の温度が一定に保たれていないため、貨物に水分が多いと外気温の変化によって結露を生じ易いこと、及びフィッシュミールは多かれ少なかれある程度水分を含んでいることが認められるが、これらの事実は、貨物の運送人である以上、被告において一般的に知っていたか、または当然に知りうべき事柄であるということができる。
3 水分含有率一〇パーセントと表示された場合の被告の注意義務の程度
そこで、本件貨物の運送にあたり、結露防止のため被告に要求される注意義務の内容を次に考える。
まず、本件貨物はシッパーズ・パックによるものである(争いがない。)から、コンテナ内の貨物の性質や状態を、被告において直接確認することはできず、被告は荷送人の表示した内容を前提として本件貨物の運送にあたるほかない。したがって、被告は、荷送人の表示した本件貨物の性質を前提とした注意義務を果たせば、一応その責めを免れることができるというべきである。
しかるところ、前記認定のとおり、荷送人は、本件貨物について水分含有率最高一〇パーセントという表示をしていた。そして、証拠(証人澤谷調書二六・二九・三〇・四九・五〇・五六頁、弁論の全趣旨)によれば、水分含有率が一〇パーセント以下のフィッシュミールであれば、ドライコンテナに積み付けて輸送するという本件と同様の運送方法によっても、経験上、通常濡損は発生しないことが認められる。そうすると、被告は、荷送人の右表示に基づき、通常であれば濡損は発生しないという前提に立って本件貨物を運送すればよく、濡損の危険が大きいことを前提とした高度の注意義務までは負っていなかったということができる。
4 被告の措置と注意義務違反の有無
被告は、本件貨物の運送にあたり、結露を防止するために乾燥剤を使用するとか、温度を一定に保つため空調設備を整えるなどの特別の措置を講じてはいない。しかし、証拠(乙五、乙六の一から四、証人澤谷調書二一から二六頁、弁論の全趣旨)によれば、本件貨物の運送に使用された船舶は、船倉及び甲板に貨物を積載する構造のものであること、船倉は、外気とは一応遮断されているうえ、船側はタンク、船底は二重底になっている関係で直接海水温の影響をうけない構造となっていること、被告は本件貨物をいずれの航海においても船倉内に積載して運送していたことが認められる。
右3の義務内容を前提にして、右の事実関係を見ると、被告は、本件貨物の運送にあたり、結露防止のための注意義務を尽くしたものと認められ、本件濡損事故について帰責性はない。
5 特別の免責事由との関係
加えて、結露は、前述のとおり、水分含有率が一〇パーセントを超えるという本件貨物の性質それ自体を原因として、あるいはそのこととクーリング不足もしくはコンテナ・ヤードにおける長期間の待機とが競合して生じたものである。そして、含有水分が多いことだげで結露が生じた場合は、「運送品の隠れた欠陥」にあたるということもできる。
したがって、その場合には、被告は、法四条二項九号により、本件貨物の濡損について賠償責任を負わない。
6 焼損についての責任の有無
また、フィッシュミールには酸化防止剤が添加されているのが通常であり、酸化防止剤が均等に投与されていないために発熱や自然発火の危険があることは、被告の知り得なかったことである。したがって、右については、運送品に隠れた欠陥があったというべきであり、被告は、焼損についても同様に賠償責任を負わないというべきである。
7 その他の原告の主張について
原告は、ドライコンテナを提供したことについて法五条一項三号の注意義務違反を主張するが、同号は「船倉、冷蔵室その他運送品を積み込む場所」を運送品の受入、運送及び保存に適する状態におくことを運送人に対して要求するものであって、コンテナそれ自体は船舶の一部ではなく運送品をまとめるための一種の容器であり、これが「運送品を積み込む場所」にあたるということはできないから、右主張は採用することができない。
また、被告が提供したコンテナに欠陥があったために本件損害が発生したということはできないこと、及びドライコンテナによる運送を選択すること自体が不適切であったとはいえないことについては、既に見たとおりである。
五 結論
以上によれば、その与の争点について判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官岡光民雄 裁判官庄司芳男 裁判官杉浦正典)
別紙<省略>